こんにちは。中定樹脂の林です。
今日はプラスチック材料が持つ耐熱性についてのお話です。
プラスチック製品は熱に弱いというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、実は熱に強いプラスチック素材も多数存在します。
基本的に汎用プラやエンプラ、スーパーエンプラと呼ばれる樹脂原料たちは機械特性や耐熱性で段階に分けられており、超耐熱素材としてはPEEKなどがよく知られていますが、プラスチック素材全体の耐熱性についてはどうなっているのでしょうか。
この記事ではプラスチック原料における耐熱性への理解を少しでも深めていただけるように説明出来たらと思います。
特別な研究者ではありませんので、あまり難しい内容は深掘りせず大事なところをまとめていきます。
耐熱性とは
プラスチック原料の耐熱温度を把握する際に指標とされるのが、長、短期耐熱性や融点、ガラス転移温度に荷重たわみ温度、ビカット軟化温度などといった使用している中で、軟化や脆化などが生じるときの温度指標などを指します。
・長期耐熱性
代表的な指標ではUL764Bによる相対温度指数というものが用いられ10万時間一定の温度で暴露試験を行い、初期の物性値が半減するその一定の温度を指標としています。
・短期耐熱性
時間に定義はありませんが、一般的に数分単位で樹脂の物理的な特性を保持できる上限温度を指します。
一定レベルの機械的強度が保持される温度でもあります。
・荷重たわみ温度
荷重たわみ温度とは、熱変形温度ともいい一定の力を加えて温度を上げていった際に一定のたわみ量を超えるときの温度を意味します。非結晶性のプラスチックについてはこの温度を超えると大きく変形してしまいます。結晶性プラスチックについても少なからず寸法変化が起きるので注意が必要となります。
樹脂の耐熱性はフィラーの種類や割合によっても影響を受けやすく、ガラス繊維の含有量が多いのと少ないのでは多い方が耐熱性は上がるなど、複合する素材によっても特性が変わります。
単に形状の保持が問題とされる場合は以下の2点を指標とします。
・結晶性樹脂→融点(Tm)
・非晶性樹脂→ガラス転移点(Tg)
融点(Tm)とガラス転移点(Tg)
先に言っておきますが、ガラス転移点と融点とは別物ですので少し注意が必要です。
・融点
実は融点というものは非晶性樹脂にはありません。結晶性樹脂にのみあります。
この温度を超えると結晶構造部分が破壊され、固体から液体へと物質が溶融します。
機械的特性は失われ、モノとして成り立たなくなります。
・ガラス転移点
プラスチックは高分子材料であり別名ポリマーとも言いますが、これらに共通しているのはある一定の温度を超えると弾性率に変化のないガラス状態から、動きが生まれゴム状態に変わってしまう点です。この時の温度をガラス転移温度と呼びますが、この温度を超えてしまうとプラスチックを材料として製品をつくるのが困難になります。ガラス転移点においての捉え方を結晶性樹脂と非晶性樹脂に分けておきます。
非晶性樹脂
非晶性樹脂ではガラス転移点を超えると機械的強度が急激に低下します。
PCやPSUなどの透明樹脂がこれに該当します。
結晶性樹脂
ガラス転移点を超えても一定の機械強度を維持します。結晶性樹脂は内部で結晶化している部分とそうでない部分が混在しており、ガラス転移点を超えると結晶化していない部分は非晶性樹脂と同じく機械的強度が急激に低下しますが結晶化部分はそのままの構造を維持しますので一定レベルの強度が維持されることになります。PPSやPEEK樹脂などがこれに該当します。
熱分解の限界点
耐熱性については物理的な側面に加えて熱劣化や熱分解のような化学的耐熱性の両面から見ていく必要があります。
もちろん最終製品の使用において耐熱性は重要な指標ですが、原料のコンパウンド時にも押出機の性能や練り込む樹脂の種類に応じて適正な温度条件で加工しなければなりません。
それぞれの樹脂原料は、加熱しある一定の温度まで上昇すると熱分解を起こし、化学結合が熱分解、熱酸化分解することで、重量低下や炭化などを引き起こします。製造過程でこれが起こるととコンタミリスクが倍増します。
エクストルーダーを用いたコンパウンド時には、熱分解温度ギリギリまでシリンダー温度を上げる事などほぼありませんが、条件設定時には素材のグレードに注意しながら溶融、混錬に適した温度だけでなく、強度の著しい低下や寸法の狂いが発生する温度にも細心の注意が必要です。
樹脂ごとの耐熱温度の比較
良く知られている一般的な樹脂や高耐熱性を持つ樹脂の大まかな耐熱性を比較してみます。
耐熱性と言っても融点やガラス転移点、(荷重たわみ)熱変形温度など色々ありますが
以下は無荷重環境での単純な連続使用温度を書いておきます。
LDPE (フィルム) 70℃〜90℃
HDPE (包装から日用品まで最も幅広い) 90℃〜100℃
PP (自動車のドアパネルから雑貨まで) 80℃〜120℃
ABS (一般雑貨から家電、おもちゃなど) 70℃〜100℃
PET (ペットボトル、服) 60℃〜80℃
PMMA(アクリル板や自動車ランプ) 70℃〜90℃
POM (ギア、部材関係) 80℃〜120℃
PC (衝撃パネル、カメラレンズ) 100℃〜130℃
PSU 175℃
PPS (電子機器部品) 180℃〜220℃
PEEK ( 半導体、装置部品) 260℃
それぞれの樹脂において様々な特性のグレードが用意されていますので、大まかな範囲となります。
同じPP(ポリプロピレン)でもランダムタイプとホモタイプでは透明性や耐熱性に違いがあり、
ホモグレード100%とランダムグレード100%では耐熱性だけでなく触り心地や柔軟さなど全然違うため
同じようには使用できません。例えば、熱いお茶を入れる給水ポットなどをPPランダムグレードで成形し、普通に使用するとフニャフニャしてしまいます。
最後に
今回はプラスチック原料が持つ耐熱性の中身について少し解説いたしました。
樹脂素材には様々な種類がありそれぞれで耐熱性や特性が違います。そのため使用する製品、用途によって最適な素材を選択しなければなりません。
また、容器系など滅菌処理する場合などには耐熱性だけでなく、新たに耐圧性などの問題も出てきますので注意が必要です。
中定樹脂では汎用的な耐熱樹脂はもちろん、特殊な用途に使用する耐熱樹脂につきましてもメーカーの専門技術者とともにご協力させていただきます。
弊社ブログをご覧いただくみなさまの樹脂に対する知識を深めるお手伝いが少しでも出来ていたら嬉しいです。
他にも製品情報や技術情報など様々なコンテンツを発信していきたいと思います。
ありがとうございました。